自然が育てた文化 盆栽

令和元年度文化交流使(長期派遣型)
森 隆宏
盆栽師
  • 派遣国:カナダ,アメリカ,オーストラリア,シンガポール
  • 活動期間:2019年7月17日~9月14日

「盆栽」での文化交流使は私で3 人目。今の私だからできることを模索し,技術や知識の伝授だけでなく,もっと盆栽の世界を感じてもらいたい。交流使拝命から活動に入るまで,活動を続ける中でも,その想いとともに挑戦の日々を過ごしました。世界各地で市民権を得ている盆栽。海外で店を構える方も多くいます。各都市には愛好家団体があり,会員数100 名を越える団体もあります。ただ,団体の多くが,「若者にもっと参加してもらいたい」という日本と同じ課題を抱えていました。「盆栽は年配者の娯楽」という実態は,世界共通なのかもしれません。

現地の庭木を盆栽に改作する実演。JICCにて

本活動で私自身が設けた使命は,「盆栽で講演を行う」。文化施設,教育施設,研究施設といった場で,まだ盆栽と接点のない若い世代,働く世代に対し,盆栽の魅力をお伝えし,業界に新たな風を送り込む活性化を図りたい。
夏季2 か月の活動期間。目標としていた大学での講演は長期休暇と重なり果たせませんでしたが,訪問した8 都市全てで講演を開催。愛好家ではない方々に向けて盆栽基礎知識から職人の思考まで,幅広くお話する機会をいただきました。講演後には実演を披露。予備知識からの実演という連動もあり,多くの方が盆栽を身近に感じていただく時間になったと実感しています。

幅広い層の参加者を前に講演。JAPAN HOUSE LAにて

植物が育てば盆栽も育つ。しかし気候や生活環境の違いなど日本とは異なる風土で暮らす人々にいかに親しみを感じてもらえるか。それは,盆栽の魅力だけでなく,日本人の精神をお伝えすることも,非常に大切なことであり,私にとっても初心に立ち返る意義ある内容でもありました。「盆栽職人は黒子である」。親方から受け継いだ教えで,盆栽が主役であって,職人は一時期の責任を持って携わる裏方の存在。盆栽に対して謙虚でいなければならない。

植物園スタッフを対象に実演。ガーデンズバイザベイにて

巨大な杉の盆栽の作業風景。Nikkei Centreにて

盆栽で言う謙虚とは,四季の変化や自然への畏怖とともに紡いだ風土の中に養われた美しい姿です。謙虚とは尊重であり,調和です。そんな日本の美しい心は美しい文化,盆栽を育てました。異国での活動にあたり,その国の風土や文化を尊重し,日本から運ばれた盆栽はそこで暮らす人々と調和する。長年築き上げた互いの文化と盆栽を通した交流の上に本活動の成功があり,尽力していただいた全ての皆様へ改めて感謝を申し上げたいと思います。そして,この活動が次世代へ継続されていくことを願います。

森 隆宏 プロフィール