尺八の“今とこれから”の世界中での展開

令和元年度文化交流使(長期派遣型)
黒田 鈴尊
尺八奏者
  • 派遣国:中国,イタリア,ブラジル,フランス,ドイツ,ポルトガル
  • 活動期間:2019年5月30日~7月28日

私は文化庁文化交流使として日本の古典の魅力を発信するとともに,同時代の空気を吸って生きる作曲家に新作を委嘱して“今とこれからの”尺八音楽を聴いていただくこと,の両極を使命とした。
まず,新たな尺八ブームの勃興地でもある中国を訪問。北京での中国伝統楽器の簫(しょう),古箏(こそう),電子音と尺八のカルテットでは,民族楽器と現代テクノロジーの交差による新境地ながら,どこか懐かしい感覚も抱いたのが印象深い。尺八の祖先とも言われる簫は,音色が似つつも,同じ旋律を吹くほどに互いに真似できない固有の表現が際立つことも新鮮だった。ピパ奏者との即興では,シルクロードを経由した楽器同志の一期一会の音世界に,時間が経つのを忘れた。
イタリアでの「mdi ensemble」との共同主催公演では尺八と洋楽器とのコラボレーションによって新たな音楽世界を開拓するとともに,一緒に音楽するからこそ際立っていく東西の楽器それぞれのオリジナリティを追求した。ミラノでは,吐いた息と音が丸ごと飲み込まれていくかのような聴衆の集中力の高さ,会場全体の一体感に感動した。

イタリア・ミラノでのリサイタルにてmdi ensembleと共演

ブラジルでは太鼓グループと“よさこい鳴子踊り”を用いてのコラボレーションにも挑戦。高知の祭り音楽をロンドリーナの皆さんもよくご存知で,すぐ一緒に音楽できることの縁の深さと喜びに心打たれた。アリーナ級の広さの会場での独演会では,日本の童謡へのダイレクトな反応にも驚いた。国際交流基金主催によるサンパウロ公演ではブラジルの音楽家とショーロ,バイヨン,ボサノバ等現地の音楽で共演。どんな音もポジティブなコミュニケーションの一部となる音楽空間を共有できたことは,今の音楽活動への大きなヒントとなっている。

ブラジル・クリチバ移民祭りにて独演会

ドイツで委嘱初演した足立智美氏による新作は,個人的にも尺八界にとっても初の3D 楽譜作品。毎回演奏が全く変わることも前提のアート作品を,ベルリンの若い世代の観衆から指笛とBravo の歓声で受け止めていただき,現在進行形の尺八音楽を共有叶ったことは心底嬉しかった。

ドイツ・ベルリンでのリサイタルで3D 楽譜を世界初演

2 か月間6か国16都市にて,およそ34 公演/講義/ワークショップを行った。文字通り世界中のたくさんの皆様にご協力賜った。改めて心から感謝したい。

黒田 鈴尊 プロフィール