能・SILENCIO(静寂)

平成29年度文化交流使(長期派遣型)
種田 道一
金剛流能楽師
  • 派遣国:アメリカ、フランス、スペイン、イタリア、ハンガリー
  • 活動期間:2018年1月20日~3月15日

西洋の古典芸能が「人間性の追求」であるのに対し,日本のそれは「癒し」の芸術であると言われています。
しかし本当の「なぐさみ」は優れた芸術によってのみなされるものです。600年以上絶えず演じられ,ユネスコの無形文化遺産として最初に登録された能,同じ中世に成立した茶道,香道とを関連させ同じく古い歴史をもつ国の人々にその魅力を伝えることができればと考えました。パリ日本文化会館で茶会,聞香(もんこう)の会を催しそれぞれの趣向にちなんだ謡を手前中にうたいました。これは常の会ではしないことで音の無い手前に更に静粛感を与えることになったと思います。

ヴェネツィア大学ワークショップ

日本からは能面を2面,能装束の長絹(ちょうけん),鬘(かずら),鬘帯(かずらおび),蜘蛛の糸またワークショップの為の扇を25本持ってまいりました。
今までの海外公演は能のかたちで総勢20名を超えるものでした。今回は一人で出来るもの,さらに一人でしか出来ない内容を考えました。
1時間から1時間半の公演ではまず最初に有名な『高砂』の小謡にローマ字表記を付け加え,全員で合唱することで皆の心を一つにすることから始めました。能を神(しん)・男(なん)・女(にょ)・狂(きょう)・鬼(き)に分け代表曲を一番ずつ仕舞で披露いたしました。その曲間には感情を表現する型と所作を実演し,面装束を観客に着けてもらうこともしました。最後の鬼(き)の曲『土蜘蛛』で蜘蛛の巣を撒くのは大そう好評でした。

パリ日本文化会館公演「土蜘蛛」

ワークショップでは全員に扇を持ってもらい短い仕舞の稽古をし, 3,4日の練習で成果発表会をしましたが,参加者が演劇関係者や日本文化を学んでいる学生達だけに素晴らしい結果を得ることができました。

パリ公演内での観客による体験

最終地のプダペストの映画・演劇学校ではワークショップの日数や時間が十分とれたことや,大学側が事前に専門家による能楽概説の講義をもたれていたことで学生の関心がとても深まっていたように思います。最後の稽古の後,私へのお礼として学生が学んだばかりだというハンガリーの民族舞踊を披露してくれたのはとても感動いたしました。私の使命である文化の交流ができたと実感された瞬間でした。
今回31回の活動を終え,多くの国での能に対する印象が共通してSILENCIO(静寂)ということに驚き,また正しく能を伝え理解して頂けたと確かな手応えを感じることができました。

プダペスト国立映画・演劇大学発表会

 

種田 道一 プロフィール