文化交流使の経験

平成27年度文化庁文化交流使(長期派遣型)
矢内原 美邦
振付家,劇作家,近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻准教授
  • 派遣国:シンガポール,マレーシア,韓国,タイ,ミャンマー,ベトナム,アメリカ合衆国,インドネシア,フィリピン
  • 活動期間:2015年8月22日~2016年1月31日

日本を出て数か月,シンガポール,ミャンマー,ベトナム,マレーシア,タイ,インドネシアと,他の国の人々と舞台を創るために東南アジアの国々を回る。日本はもう寒くなったのだろうがこちらはどこへ行っても夏。まるで季節が止まったようで,行く先々の屋台で買ったT シャツがスーツケースをいっぱいにしている。新しい国に来た時はいつも空港からのタクシーの車中から,これからこの町でどんな出会いがまっているだろうかと,立ち並ぶ高層ビルと,そのうえに広がる青い空を眺めていた。どこへ行ってもまず感じることは同じ。この国でちゃんと作品を発表できるだろうかという不安ばかりが先に立つ。それでもその不安が大きければ大きいほど,きっとそこには素晴らしい出会いと発見があるだろうと,これまでの経験でそんな期待に心を躍らせる。
8月,バンコクではテロ事件が起こり観光客も犠牲になった。その現場が稽古場のすぐ近くにある。買い物に行くときはいつもそのそばを通る。ここで人が死んだのか。と,何もなかったようにたくさんの車が行き交う街角を眺め,足早に町を行く人の波に飲み込まれる。そんな時,どうして私はここにいるのだろうかと,ふと考える。右も左もわからないこの町で,いったいなにができるのだろうかと不安にかられながらも,国際交流基金に助けていただきバンコクシアーフェスティバルに参加することができた。また,バンコクシアターフェスティバルでは,上演した『戦略的な孤独』が脚本,演出,助演女優賞にノミネートされ,出演してくれたタイの女優ゴルフさんが助演女優賞を受賞した。
アジアにはたくさんの国があるけれど,生活レベルも,モノの価値観も違うし,言語も,宗教も,民族もみんなそれぞれ違う。アジアの歴史について述べれば,先の大戦で日本の被害を受けなかった国を探す方が大変かもしれない。
そんな状況の中,ここでどのような活動をしていくべきなのかを考えなければいけない。答えを探し,いろいろな人と会うたびに,もっと別の答えがあるのではないかと考える。その人,その国の立場に立って物事を見つめることで,私たちの国の在り方もきっと見えてくるのだろう。目に見える簡単なこと以外はなんにもわかってない。私に何かができるとは勿論言えないが,試してみるくらいは許されているだろう。

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タイバンコクシアターフェスティバル参加作品『戦略的な孤独』

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タイバンコクシアターフェスティバル参加作品『戦略的な孤独』

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シンガポールシアターインターナショナルアートフェスティバル参加作品

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ベトナム ニブロール公演の様子

ベトナム ニフロール公演の始まりを待つ人々

ベトナム ニフロール公演の始まりを待つ人々

矢内原 美邦プロフィール