「文化交流使」の37 日が私に遺したもの

平成27年度文化庁文化交流使(長期派遣型)
藤田 六郎兵衛
能楽笛方 藤田流十一世宗家
  • 派遣国:イギリス,フランス,韓国
  • 活動期間:平成28年2月23日~3月30日

「藤田さん,スケジュールをひと月空けることは可能ですか?」
3年程前,雑談の中で文化庁の国際文化交流室の方から,そんな質問があった。
「何とかなる月があるかもしれませんね」と軽く答えたことが,じつは,とんでもないことになった。
ある日,一本の電話。「決まりました!」「何が?」「交流使に」「何ですか,それ?」。こんなトンチンカンなやり取りからスタートした。「何とか来年度中にひと月」と言われても,能の世界は3年先の予定まで入る。このところ私はずっと「3年手帳」を使っている。レギュラーな催しと,その間を埋める催し。最近は歳のせいか,「それまで生きていれば」と一言発してから手帳に記入することもある。
そして何とかひと月を空けて,さあ「文化交流使」の仕組みのお勉強だ。予算がつくもの,つかないもの。宿泊費にも地域で上限があり,タクシーはだめ。通訳は,会場費は,印刷費は……。理解できたのは,事前に予算を立てるのは ほぼ不可能ということだった。
私は,各国の大使館や領事館にはお世話にならず,ロンドン在住の日本人のコーディネーター,パリの写真家,韓国に太い人脈を持っている友人,三人の個人的ルートにすべてを託した。私に出来ることは,能の笛の家に生まれ,五歳からプロとして活動をしている身体を現地に持っていくこと。そして音楽高校から声楽を学び,音大卒業後も助手を勤めた西洋音楽の体験と知識。東洋の文化「能」と,西洋の文化「クラシック音楽」の両方を体現しながら,海外の人々に「理解できること」と「理解しにくいこと」をレクチャーしながら交流する。それが私の役目だと,活動がスタートしてから気付いた。
当初は,出演している能のDVDを上映し,能管の指導と演奏を,と思っていたが,キリスト教文化と神道や仏教,「自然」に対する感性の違いは大きい。現地で考え,感じながら,「無音の世界の音」について語り,緩急の笛の演奏を共有するパターンに変えた。
通訳もロンドンでは演劇,パリでは日本近代文学,韓国では日本古典文学を専門とする人材を得て,観客の琴線に触れ得たと思う。とくに韓国では,光州事件記念公園で慰霊の演奏をする機会を得た。ここでの衝撃的な体験は,能の笛の持つ「鎮魂」の力をあらためて教えてくれた。生涯忘れられぬ記憶となるだろう。「文化交流使」の37日間15回の活動は,私の63 年の人生に,何物にも代えがたい大きな贈り物となった。御礼を申し上げる。

イギリス サリー州エガム ロイヤル・ホロウェイ(ロンドン大学) 半田能楽シアター。2016/2/25

01 パリ-コンセル-2

フランス パリ市内 パリ・コンセルヴァトワール。2016/3/17

17 光州-初日講座

韓国 光州市 毅斎美術館。2016/3/23

01 パリ-コンセル