海外に向けて「語り」の扉が大きく開かれた!

平成26年度文化交流使(海外派遣型)
平野 啓子
語り部・かたりすと
  • 派遣国:ドイツ,トルコ
  • 活動期間:平成26 年11 月14 日~ 12 月15 日

まずは,文化庁文化交流使として,ドイツ・トルコの各地に,日本文化である伝統的な「語り」を紹介できましたこと,誠に嬉しく,心より感謝申し上げます。以下,報告です。

目的
ドイツ及びトルコの大学や日本語教育機関等において,日本文学の音声表現や指導,地域に伝わる物語を伝え,日本の伝統である「語り」や後に登場する「朗読」文化の紹介をする。

日ごろ私の行っている次の仕事をドイツ・トルコで行う。
●日本文学を声で伝える「語り」「朗読」の世界を,実演で紹介することやワークショップ・講座などで,解説や指導すること。
●昔から言い伝えられている伝承を自ら作品にして「語り」で継承すること。

ミッションについて
[訪問地域]
ドイツ:ベルリン・デュッセルドルフ・ケルン
トルコ:ヤロヴァ・イスタンブール・アンカラ・カイセリで実演,実技指導,講義,情報交換,その他(取材・視察等)
計三十回以上
[公演]
会場
《ドイツ》
ベルリン日独センター,ハインリッヒ・ハイネ・デュッセルドルフ大学,ケルン日本文化会館
《トルコ》
土日基金文化センター,ボアジチ大学講堂,エルジェス大学講堂,イスタンブール旧総領事館事務所,ヤロヴァの公民館

内容
日本文学の語り
《ドイツ》
「竹取物語」「走れメロス(太宰治作)」「しだれ桜(瀬戸内寂聴作)」「春はあけぼの(清少納言作)」ほか
(通訳,翻訳の字幕,事前のあらすじ説明等で補足。ベルリンでは,ドイツ人ストーリーテラー,バーバラ・ヘルフリッチェさんと共演の企画となり,同じ作品を,段落ごとに,日本語とドイツ語の翻訳とを交互に伝えて,輪唱のように一つの作品にして上演。)
※ベルリンでは,ベルリン東京友好都市提携20周年記念公演として開催。
《トルコ》
「竹取物語」「藪の中(芥川龍之介作)」「しだれ桜(瀬戸内寂聴作)」ほか
(通訳,翻訳の字幕,事前のあらすじ説明等で補足。ボアジチ大学では,それらを一切使わず,トルコの詩人と共演し,同じ作品を,段落ごとに,日本語とトルコ語の翻訳とを交互に伝えて,輪唱のように一つの作品にして上演。)
※ 2014 年は,日本トルコ国交樹立90 年に当たっていた。
※ボアジチ大学は,創立150 年記念公演として開催。

ドイツのストーリーテラーと共演。日本語×ドイツ語翻訳の輪唱で一つの作品に。 ©2014 ベルリン日独センター

ドイツのストーリーテラーと共演。日本語×ドイツ語翻訳の輪唱で一つの作品に。 ©2014 ベルリン日独センター

トルコの詩人と共演。日本語×トルコ語訳の輪唱による日本文学の語り。

トルコの詩人と共演。日本語×トルコ語訳の輪唱による日本文学の語り。

富士山や桜の花見にまつわる話
《ドイツ・トルコ》
(富士山では,「竹取物語」「富嶽百景(太宰治作)」「聖徳太子飛翔伝説」など,桜の花見では,「しだれ桜(瀬戸内寂聴作)」,唱歌「さくらさくら」歌詞朗読,花見の由来など)
(※パワーポイントを使った公演では,日本画や写真とともに紹介。使用日本画:公益財団法人日本美術院同人・日本画家 高橋天山「羽衣」「なよ竹のかぐや姫」「うたたねの」,歴史画家 小堀鞆音「清少納言」個人蔵,「聖徳太子馭神馬到富嶽図」個人蔵,「聖徳太子十六歳尊像」佐野市郷土博物館,ほか)

ドイツの大学授業で,名作の実演とワークショップ。通訳付きで,富士山や桜の語りも。

ドイツの大学授業で,名作の実演とワークショップ。通訳付きで,富士山や桜の語りも。

相手国に関わる作品
《ドイツ》
ドイツ詩人 シラー,ハイネの詩
「走れメロス」(※シラーの詩「人質」とギリシャ古伝説に基づく作品)
《トルコ》
「エルトゥールル号物語」トルコ語訳付き(※日本とトルコの友好関係に結びついた話を,平野啓子が自身の取材に基づき脚本にした作品。協力:串本町)
「稲むらの火」(※ラフカディオ・ハーン原作,中井常蔵作。トルコは地震が多く,防災関係で2国の交流も行われていることから上演。)

使用曲
トルコ使節艦エルトグルル号追悼歌,ほか。
篠笛 望月美沙輔

早替えで着物からドレスへ。トルコで,「竹取物語」の後,「エルトゥールル号物語」の語り。

早替えで着物からドレスへ。トルコで,「竹取物語」の後,「エルトゥールル号物語」の語り。

[講義・指導]
会場
《ドイツ-ベルリン日独センター》
ドイツ人社会人 1 人「かぐや姫」朗読 マンツーマン指導
日本語教室2 クラス
4 人「笠地蔵」
3 人「日本の良さを日本語で意見発表」
《トルコ-アンカラ大学》
トルコ学生 200 人(個別指導20 人)
「走れメロス」「初恋(詩)(島崎藤村作)」
「竹取物語」「雨ニモ負ケズ(宮沢賢治作)」
「春はあけぼの-手話語り-」等

[講演]
会場
《トルコ-日本国大使館》
演題
「伝わる話し方」

[情報交換]
会場
《ドイツ》
在ドイツ日本国大使公邸, 在デュッセルドルフ日本国総領事公邸
《トルコ》
土日基金文化センター,アンカラ大学,ボアジチ大学,カイセリ,ヤロヴァ, 在トルコ日本国大使公邸,在イスタンブール総領事公邸

内容
日本語で伝える「語り」の世界について,語りの力とは,語りにふさわしい言い回しや文章表現,暗唱の文化と朗読の文化とその作品など。

[その他]
ドイツのストーリーテラーの語りの会やトルコの学校の授業などを視察,取材。
(使用衣装:主に和服)
マスコミ:放送・新聞掲載など
テレビ:TRT(トルコ国営放送),NHK ニュースおはよう日本,NHK あさイチ
新聞:ミリイェト紙,ヒュリエト紙などトルコの新聞6紙,産経新聞
雑誌:ISSUE(トルコ)

ドイツ・ケルンで。富士山の伝説を日本画と。通訳さんとともに。

ドイツ・ケルンで。富士山の伝説を日本画と。通訳さんとともに。

主な成果
《ドイツ・トルコ》
・聞き手の全員が,物語の「語り」を聴くのが初めてだったが,ドイツ・トルコとも,「語り」「朗読」「一人芝居」の違いを一瞬のうちに聞き手が理解した。
・初めて「語り」に触れた外国人から,「語り」の世界に驚きと称賛の声をいただき,強い関心を持ってもらうことができた。
・すべての受け入れ先の主催者より,「大成功だった!」との言葉をいただいた。
・外国人が初めて触れる日本文学の中に,外国人が感動する作品が多数あることがわかり,「語り」が日本文学へ誘う役割を果たせることが分かった。
・日本語とドイツ語,日本語とトルコ語の音色の違いを聞き手が体感。「日本語は音楽的だ」との感想多し。
・語り上演におけるジェスチャーの役割と適度な間合いを確認できた。
・語り上演における輪唱,逐次通訳,同時通訳,翻訳の字幕,それぞれの効果の度合いを確認できた。文章の段落ごとにそれぞれの自国語で交互に伝える輪唱のような共演をする際,作品に宿る日本人の感性を共有する作業から入り,融和した一つの作品としての音声表現ができた。
・交流会で会の終了時間を越えても足りないほどの意見交換が活発に行われた。
・丹念な音声表現指導,活発な質疑応答や交流会等を通して,日本語の特徴を具体的に浮き彫りにできた。
・ドイツ・トルコそれぞれの国に対しての,現時点におけるもっとも伝わりやすい「語り」の手法を発見することができ,披露できた。
《ドイツ》
・語りを生業とするドイツ人女性とお会いでき,プロどうしの情報交換ができた。その人と,同じ作品を日本語とドイツ語で共演。
・ドイツ国内にも語りの存在することをドイツ人が認識。後継者が何人もいることも確認。
・予定時間を超える活発な質疑応答。専門領域に踏み込む質問多数。
・在ドイツ連邦共和国中根 猛特命全権大使主催の会で語りでの文化交流についての情報交換。
・ハインリッヒ・ハイネ・デュッセルドルフ大学公演に,在デュッセルドルフ嶋﨑郁日本国総領事がご来場,ご挨拶・ご観覧。総領事主催の会でドイツ人を囲み語りに関する情報交換。
《トルコ》
・トルコの詩人による翻訳で,同じ作品を日本語とトルコ語で詩人と共演。
・平野の指導に基づく竹取物語冒頭の暗誦を,トルコのアンカラ大学の学生が舞台で行い,他大学の学生の「語り」への意欲を掻き立てた。エルジェス大学で,日本文学の暗誦を授業に取り入れる検討を始めた。
・トルコの詩人に,日本文学の一部を音声表現指導。公演時にその詩人が日本語で上演。
・エルトゥールル号物語(取材・構成・脚本 平野啓子)の脚本が,トルコ語に翻訳され(アンカラ大学協力),アンカラ,カイセリ公演での配布プログラムに全文掲載された。土日基金文化センターのサドゥクラル理事長が観覧し,パーフェクトの言葉をいただく。エルドアン大統領・チェリキ文化観光大臣より祝電をいただき読み上げられた。
・ヤロヴァでは,県知事より冒頭ご挨拶あり,最後までご観覧。
・天皇誕生日祝賀レセプションに招待され,スピーチの機会をいただき,会場で日本の心についての情報交換を活発に行った。
・在トルコ共和国横井裕日本国大使主催により,トルコ人を含む大使館職員への講演で講師を務めた。日頃,気づかないことに気づかせられて大変勉強になり役にたった,という言葉を皆様からいただいた。
・ボアジチ大学公演に,在イスタンブール福田啓二日本国総領事がご来場,ご挨拶・ご観覧。総領事主催の会でトルコ人を囲み語りに関する情報交換。

ドイツ・ベルリンで。ドイツのストーリーテラー,ヘルフリッチェさんと日本文学を日本語とドイツ語訳で輪唱。

ドイツ・ベルリンで。ドイツのストーリーテラー,ヘルフリッチェさんと日本文学を日本語とドイツ語訳で輪唱。

まとめ
関係者の皆様の限りない優しさと思いやり,そして,行き届いた会場設営のおかげで,すべてのミッションがスムーズに運びました。おかげさまで,終始大変温かく和やかな雰囲気の中で,イベントが開催され,私が,企図していたことのすべてを,実現できたと思っております。終演後のお客様の反応を見るたびに,また,主
催者から,大成功でした!と喜びのお声をお聴きするたびに,胸が熱くなる思いでした。 「語り」の国際交流は,長年私が国際交流として夢見ていたことで,これまでその実現のために,様々な努力をしてきました。かつて,韓国と中国で,現地の方々を対象に日本語の「語り」公演をし,「語り」が国境を超える瞬間を体験しました。今回のドイツ・トルコへの派遣に先立ち,ケルン日本文化会館(清田とき子館長)を訪問して打ち合わせをするなど,事前の準備を重ねてきたことも,今回のミッションの成功につながったと思っています。

今回,外国人との,長時間に及ぶ,専門的な内容にも踏み込んだ質疑応答もあり,「語り」に関するすべてのことに回答する責任がかかっていることを実感しました。
文化庁が「語り」の専門家の存在をこれまでずっと見守ってくださり,日本の語り文化の分野の代表として,この度文化交流使に指名していただきました。「語り」文化での国際交流の厚い扉を開くことができましたことを,深謝いたします。さらに,今回の派遣に当たって,文化庁国際課のご配慮により,外務省と情報が共有され,関係者の総力が結集されたことにより,大きな成果を挙げることができました。このことにつきましても関係者の皆様に心から厚く御礼申し上げます。

今回の両国訪問にあたりご協力いただきました,受け入れ先のベルリン日独センター,ハインリッヒ・ハイネ・デュッセルドルフ大学,ケルン日本文化会館,ボアジチ大学,JICA,ヤロヴァ県,ヤロヴァ市,土日基金文化センター,アンカラ大学,エルジェス大学の皆様,また,文化庁はじめ外務省,国際交流基金,在ドイツ連邦共和国日本国大使館,在デュッセルドルフ日本国総領事館,在トルコ日本国大使館,在イスタンブール日本国総領事館,駐日ドイツ大使館,駐日トルコ共和国大使館,文化庁文化交流使事務局の皆様,その他多くの皆様に心より感謝申し上げます。ベルリンに関しては特に,企画段階より,早稲田大学元総長の西原春夫先生,早稲田大学教授・ベルリン日独センター評議員の縣公一郎先生にご助言,ご指導を賜りましたことも合わせてご報告申し上げます。

訪問先のドイツ・トルコからの“素晴らしいお土産”を,どっさりと持ち帰りましたので,日本国内の公演等で紹介したいと考えております。帰国公演を企画中です。
そして,今後も私は,「語り」による国際交流を続けたいと思います。


平野 啓子 プロフィール
静岡県生まれ。名作・名文を暗唱する語り芸術家として舞台やテレビで活躍中。特に舞台では古典から現代まで名作の語りを総合芸術として光や音響,季節の風物を生かし独自の世界を切り開き,空間エンターテインメントを創造。国内外で公演,日本の文化や日本語の美しさを紹介するなど,新境地を開き高い評価を得ている。文化庁芸術祭大賞ほか多数受賞。語りのプロチーム,カタリザーの会主宰。