熱望される,日本文化を英語で学べる環境

平成26年度文化庁文化交流使(海外派遣型)
林田 宏之
CG アーティスト
  • 派遣国:クウェート、ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、バーレーン、ベトナム、タイ
  • 活動期間:2014年11月1日~12月14日

若者に人気の日本のアニメとテレビゲーム

これまで文化交流使といえば,茶道,書道,俳句,能,和太鼓といった日本の伝統的な文化に携わっている方々が大半を占めていたと思われます。そういった中で,私は自分の職業であるコンピュータグラフィックスを軸に,アニメ作品,テレビゲーム,デジタルメディアを用いた作品,そしていわゆる「オタク文化」と呼ばれる,とても「新しい」日本の文化について訪問先の国々でレクチャーおよびワークショップをおこないました。

クウェート大学建築学部でおこなったCGワークショップの様子

クウェート大学建築学部でおこなったCGワークショップの様子

今回私は中東のクウェート,ヨルダン,レバノン,サウジアラビア,バーレーン,東南アジアのベトナムおよびタイ,計7 か国を約1 か月半かけて訪問しました。それぞれの国や施設によってワークショップ,レクチャーの内容は異なりますが,具体的には下記のようなことをおこないました。

クウェートのガルフ大学で開催された地元のゲームコミュニティによるコスプレ大会

《ワークショップ》
●ハイエンドな3DCG ソフトウェアを使って,自分で考えたキャラクター,アニメーションなどを作成する。
●同じくハイエンドな3DCG ソフトウェアを使って,古典絵画を参考にライティング(照明)のやり方を探る。
●グラフィックデザイン用のソフトウェアを用い,ロゴマークなどのデザインをする。
《レクチャー》
●日本のいわゆる「オタク文化」と呼ばれているものの紹介。テレビアニメの歴史,コミックマーケット,コスプレ,萌えキャラなど。そしてそれらが社会に与えている影響や,アニメーションを作るための最新技術などを紹介。
●日本の新旧アニメ,特撮映画などが世界のエンターテイメント文化に与えた影響について解説。
● CG を使った日本の人気テレビコマーシャルがどのように作られているかを解説。
●現在のオタク文化と古典文化のつながりについて解説。

主に中東では,一部を除いて日本や欧米諸国のようにエンターテイメントにおけるCG 技術が発達しておらず,それを教える学校もあまりないようです。テレビで流れるCM に使われているCG の多くは欧米で制作されているようでした。したがってワークショップではCG の制作を初めて経験するという人がほとんどで,みなソフトウェアの操作に苦労していました。しかし普段から映画やインターネットなどでCG の映像を楽しんでいることもあり,このソフトを使えばあのような映像ができるんだという興味から,苦労しながらも非常に楽しんでやってもらうことができました。

各国をまわりながら現地の人の話などを聞いているうちにわかったのは,今の10 代から20 代の若い人たちにとって,日本と聞いて思い浮かべるのはもはや富士山や桜,空手などではなく,アニメとテレビゲームだということです。日本から遠く離れた中東の地でも,驚いたことに多くの人が日本のアニメやゲームについてとてもよく知っています。これは,彼らが子供の頃からテレビで日本のアニメが放映されており,多くの人がそれを見ながら育ったことによる部分が大きいようです。もちろん,インターネットによって日本発信の映像作品が気軽に見られるようになったことも影響しているでしょう。「オタク文化」と呼ばれるものが今の若い外国人にとって日本文化への入り口になっているのです。

レバノンのサン・ジョセフ大学日本研究センターでおこなったレクチャーでの記念撮影

レバノンのサン・ジョセフ大学日本研究センターでおこなったレクチャーでの記念撮影

訪問したそれぞれの国で日本大使館の主催によりレクチャーやワークショップをさせていただきましたが,そのほとんどで,これまでに開催したどのイベントよりも多くの集客があったとの言葉をいただきました。それだけ,今回私がレクチャーさせていただいた内容について各国の若者が関心があるということなのでしょう。

日本語の壁

中東各国の公用語はアラビア語です。私はアラビア語を話すことも聞きとることも全くできないので,コミュニケーションについてやや不安がありました。しかし実際に現地に行ってみると,大きな都市に於いてはどこに行ってもアラビア語と英語が併記されており,ほとんどの人が英語を話すことができるため,心配は杞憂に終わりました。レクチャーやワークショップをおこなった会場の多くは大学で,主に美術や建築,デジタルメディアを専攻する学生が対象でした。その学生たちも英語を話し,東南アジアにおいてはタイで訪問した大学は英語で授業ができることを売りにしており,グローバルな人材を育てることにとても積極的です。そういった中で,多くの大学で聞かれたのは「英語で日本文化を勉強することはできないのか?」という言葉でした。

タイのプリンス・オブ・ソンクラー大学デジタルメディア学科でおこなったCGワークショップの様子

タイのプリンス・オブ・ソンクラー大学デジタルメディア学科でおこなったCGワークショップの様子

 

どこの国に行っても,日本の文化に興味を持つ学生はたくさんいます。そして彼らは日本に留学して,日本のアニメーション,デザインや美術,文化について学びたいと思っています。しかしそこに「日本語」という大きな壁が立ちはだかります。理系の分野に於いては日本でも英語で授業を受けられる環境は多いですが,こと美術,デザイン,アニメーションといった分野に於いては,英語でそれらを勉強できる大学というのは皆無に近いのではないでしょうか。私の母校である東京藝術大学も,まず日本語が理解できることが入学するための条件となっています。したがって現在この分野で中東などから留学してきている学生は独学で日本語を習得し,それから日本の大学に入るということをやっています。

日本の優れた文化を学びたいという意思があるにも関わらず,言葉の壁でそれが叶わないというのは,日本にとっても大きな損失ではないでしょうか。少子化によって多くの大学が経営で苦しんでいる今,英語で学べる環境を早急に整え,このような学生を受け入れられるようにすることは,日本の文化を広めるという点では意義のあることだと考えます。

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林田 宏之 プロフィール
福岡県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科ビジュアルデザイン専攻卒業。CG アーティスト,
CG ディレクターとしてCM,映画,ゲーム,ミュージックビデオなど,幅広いジャンルでCG 制作,VFX 制作
に携わる一方,オリジナル作品による個展を銀座や青山のギャラリーで開催するなど,バラエティに富んだ
活動を行っている。また,CGWORLD といった雑誌記事,CG 技術書の執筆,Autodesk 社や専門学校主催
のセミナーなどでの講演も行っている。

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