351日間の旅を終えて

平成25年度文化交流使(海外派遣型)
レナード 衛藤
和太鼓奏者
  • 派遣国:スイス,フランス,イタリア,チュニジア,ポルトガル,インド,オランダ,ドイツ,ハンガリー
  • 活動期間:平成25 年8 月8 日~平成26 年7 月23 日

私は文化交流使として,351 日間9 か国で活動してきました。訪れた国はスイス,フランス,イタリア,ポルトガル,オランダ,ドイツ,ハンガリー,チュニジア,インドです。

文化交流使のお話をいただいて自分らしい活動の在り方を考えた時に真っ先に浮かんだことは,異なる背景の表現者たちと時間をかけて向き合い,創作を進めていきたいということでした。その過程を通じて,お互いの文化や創作の違いを学んでいけたらと思いました。

そして,私がその活動の中心に据えたのが,和太鼓とダンスの創作でした。日本やアメリカにおいてもダンスとの創作は行ってきましたが,ヨーロッパに来てまず直面したことは,多様な国や民族のダンサーが集まってカンパニーが構成されていること。ある程度は覚悟していましたが,英語,フランス語,イタリア語が飛び交っています。

2014 年 ミラノ・テアトロ・デッラルテ,スポレート・フェスティバルなどでスザンナ・ベルトラミ・カンパニーとの創作・共演

そのような環境下で具体的にどのようなテーマで創作を進めていくか。私は,太鼓と踊りは体感しながら進めていくことが自然だという思いがありましたので,とてもシンプルなストーリーを考えて提案しました。

それは,「太鼓をTAMAGO に見立て,そこから叩き出されるリズムによって生まれる新しい生命体=CREATURE。生まれたばかりの生命体は自らの肉体に鼓動を感じ,呼吸を感じ,肌や髪に触れ,ひとつひとつの関節の動きを知る。やがて,立ち上がり,歩き出し始めてから生命体は踊りという表現を獲得していく」といったものでした。

幸いダンサーや振付家にはこのアイデアが好評で,民族性や宗教観,歴史といったものに左右されずに自由にイメージを描けたようです。フランスのマルセイユ国立バレエ団を始め,イタリアやドイツのカンパニー,ポルトガルやインドのソリストと創作を重ねていきましたが,基本のストーリーは概ね変えずに臨むことができました。

2014 年1 月 インド・ムンバイにてダンサー(コリーナ・シャクティ)との創作

2014 年1 月 インド・ムンバイにてダンサー(コリーナ・シャクティ)との創作

当然のことながら,それぞれの振付家やダンサーによって表現される生命体は大きく異なり,音楽的なアプローチもどんどん変えていきました。リズムの進行を書き留めたスコアも用意していましたが,ダンスの振りが決まってくると,ダンサーの動きがスコアそのものになっていき,私にとっては「動くスコア」でした。

もちろん,ミュージシャンとの出会いや再会もたくさんありました。アムステルダム旧教会(OudeKerk)では,パイプオルガンとの共演。この時もダンスの創作に用いた音楽的ストーリーを「天と地の出会い」にアレンジし,スコアも使用せずに即興で演奏しました。

2014 年4 月 アウデ・ケルクにてパイプオルガンとの共演

2014 年4 月 アウデ・ケルクにてパイプオルガンとの共演

こういった活動を進めていく中で作品の完成度を高めていくことはもちろんですが,なかなか意思疎通がうまくいかない,もどかしい時もお互いを理解しようとコミュニケーションを取り続けた日々。そういった共演者や舞台スタッフと過ごしている時間そのものが何よりも創造的だと感じるようになっていきました。

文化交流使として,日本の文化を魅力的に紹介する使命はもちろんですが,個々のレベルで擦り合わせやコミュニケーションを積み重ねていくことが,結果として「日本大好き率」を高めていくのではないかと思いました。そのためには個の価値をもっともっと磨いて高めていかなくてはと痛感しました。

その一方で旅のルートを作り,フライトや機材輸送の見積もりを取って,精算して報告といった事務仕事も並行してやらねばならなかったのでかなり大変でした。しかし,文化交流使として過ごした日々は,これまで50 か国以上で公演してきたような時間の過ごし方とは異なり,「叩くこと,踊ること」といった表現の本質を見つめ直す貴重な時間でした。

Marseille-Issho

2014 年パリ日本文化会館,マルセイユ・フェスティバル,ユリダンス・フェスティバルなどで国立マルセイユバレエ団との創作・共演

半年くらい経過してからは,ダンスカンパニーが公演を企画したり,その国のエージェントが作品をフェスティバルにブッキングして下さったおかげで発表の場が格段に増え,目まぐるしい展開で旅をしていました。大太鼓を含む200㎏の機材を2セット持ち込みましたが,まさにフル回転。

ヨーロッパを旅しながら自分の視点がどんどん変わる中,私自身もあらゆる視点にさらされました。ダンス・フェスティバルやアート・フェスティバルに参加できたことで,音楽としての太鼓を知っていただく機会を多く作れたことはとても良かったですし,私も公演の度に新鮮な気持ちでステージに立つことができました。なかなかこのような経験はできるものではないと思います。

21歳の時から始まった私の音楽の旅人生ですが,その経験を活かしきれたこと。そして,新たな展開をも切り開く機会をいただけたこと。本当に感謝しています。インターネットの普及によって音楽の在り方が大きく変わり始めた今,自分の活動を見つめ直し,その基本となるコミュニケーションを素晴らしい環境下で学ぶことができた351 日間の旅だったと思います。個の力はとても小さなものですが,その展開力で日本の文化の発信力を高めていけたらと思います。

2013 年8 月 スイスの山とのコラボレーション

2013 年8 月 スイスの山とのコラボレーション

______________________________________________________________________________

レナード 衛藤 プロフィール

1963 年米国ニューヨーク生まれ。1984 年から1992 年まで和太鼓集団「鼓童」に参加し,その後ソロ活動開始。これまで50 か国以上を超える国々で演奏活動を行う。海外アーティストとの共演多数。和太鼓とドラムスとタップダンスで構成された“Blendrums ブレンドラムス”プロジェクトなど創作活動にも取り組んでいる。作曲した楽曲は“JFK”,“LIONKING”などの映画やCMに数多く使用されている。______________________________________________________________________________